私たちがめざす手話言語教育
ろう者が安心して社会生活を送り、自らの能力を最大限に発揮していくためには、日本手話による円滑なコミュニケーションと、必要な情報へのアクセスが保障された環境が不可欠です。
ろう当事者である私にとっても、流暢に日本手話を扱える人が身近にいないこと、あるいは手話通訳者を十分に確保できないことは、仕事や生活に直結する問題です。
しかしながら、日本手話・手話通訳教育については、体系的な教育実践や、それを理論的・実証的に検討する学術的研究のいずれも、十分に確立されているとは言えない状況があります。
こうした課題を踏まえ、手話言語教育部門では、国際的な知見を参照しつつ、教育実践と研究の両面から、教材やカリキュラム、評価方法の整備と開発に取り組んでいます。
本手話言語教育部門の前身となる「手話サポーター養成プロジェクト」は、日本財団の助成を受けて、2017年度から2025年度までの9年間にわたり、高等教育における日本手話・手話通訳教育、および手話通訳者養成体制の基盤構築に取り組んできました。
日本財団の長年にわたる多大なご支援に、ここに改めて深く感謝申し上げます。
このプロジェクトは、第一期・第二期の二段階を経て発展してきました。
第一期事業「学術手話通訳に対応した専門支援者の養成」(2017年度〜2020年度)は、聴覚障害学生支援の現場において、手話通訳ニーズに十分応えられていないという問題意識から始まり、群馬大学の学生を対象に、大学における手話通訳者養成体制の構築と、第二言語習得理論および通訳理論に基づくカリキュラムの整備に取り組みました。
その結果、厚生労働省の手話通訳者養成課程と接続した形で、大学の正課授業として養成体制を確立し、全国的にも例のない事例となりました。
第二期事業「聴覚障害に関わる支援人材育成を目的とした遠隔手話教育システムの構築」(2021年度〜2025年度)では、新型コロナウイルス感染症の拡大を契機として、遠隔教育の可能性に着目し、第一期事業で構築した「群大方式」の日本手話・手話通訳教育の全国的な展開を図りました。
その一環として、2023年度から、社会人や他大学の学生が完全遠隔型で受講できる「日本手話実践力育成プログラム」(文部科学省・職業実践力育成プログラム認定)の開講に至りました。
また、日本手話の文法をはじめ、日本手話や手話通訳のスキルや知識を体系的に深めることができるオンデマンド公開講座も開設し、多くの方々からご好評いただいております。
私たちは、これまでに培ってきた成果を土台に、2026年度から群馬大学共同教育学部リカレント教育センター手話言語教育部門として新たなスタートを切りました。
関係諸機関と連携しながら、日本手話を母語・第一言語とするろう者の支援や手話通訳をめぐる現場の課題に向き合い、その解決に資する研究的知見や方法を、人材養成教育の場を通して社会に還元していきます。
特に、ろうの子どもたちが日本手話と書記日本語という二つの言語を往還しながら知識や思考を深めていけるよう、日本手話によるコミュニケーション力と指導力を備えた人材を育成していくことは、教員養成系学部に置かれた組織として重要な使命であると考えています。
私自身、日本手話との出会いによって人生が大きく開かれました。
日本手話を通して、ろうの子どもや大人たちのインクルージョンを支える人々の輪が、さらに広がっていくことを心から願っています。
皆様のご理解とご支援を、どうぞよろしくお願いいたします。
中野 聡子
